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なぜBTSはアメリカのファンを獲得したか(1)

 2013年にデビューしたBTS防弾少年団)。その勢いはとどまるところを知りません。2017年5月には、Billboard Top Social Artist Award に選ばれ、そしてさらに11月19日にはアジア人グループとしては初めて、American Music Awardでパフォーマンスを行います。

 その他にも、Jimmy Kimmel liveやThe Ellen DeGeneres showといった、有名どころのテレビ番組にも軒並み出演が決まっていますから、これでアメリカでの露出も一気に進むことになります。 

 BTSはなぜここまで成功することができたのか。こんなテーマで書かれた記事がネット上にはいろいろと載せられていて、国を問わず、それぞれみなさんが思い思いの観点から綴られています。

  でも、「成功」って、何をもって「成功」というのかな。音源、音盤の売り上げ枚数?海外の大会場で行ったツアーの観客動員数?動画の視聴回数?・・・いろいろな見方があるけれど、きっと単純に数字だけ比べることは適切じゃないんだと思います。例えば、Boaはアメリカではさほど受け入れられなかったけど、本国韓国では今でも現役で音楽番組やバラエティ番組に出ています。東方神起も日本での人気は非常にコア。つまり、多くのK-popスターが、その時代において「成功」してきたんだと思います。

  そんなことから、「なぜ成功したか」を単純に語るのは、なんとなく自分としては違和感があるというか、おこがましい(笑)。なので、ここでは「なぜBTSはアメリカのファンの注目を得ることができたのか」という目線で書きたいと思います。

 

 まず、BTSは本当にアメリカで売れているのか。Billboardチャートをおさらいしてみます。Billboard TOP200(アルバム部門)を見てみると、 

BTS

 You Never Walk Alone⇒最高位61位(2017)

 Wings⇒最高位26位(2016)

 Love Yourself: Her⇒最高位7位(2017)  

 ここで、今MAMA大賞(韓国の音楽賞)の投票で争っている二大巨頭の1つであるEXOと比べてみましょう。 

EXO

 Overdose⇒最高位129位(2014)

 EXOdus⇒最高位95位(2015)

 The War⇒最高位87位(2017) 

 うっ。こんなに差があるんですね・・・。EXOファンの1人として、悲しみを禁じ得ません。 

 ちなみにBTSは、Billboard TOP100(シングル部門)では、「DNA」で最高位67位を取っています。この成績については、保守的なアメリカの音楽シーンにおいては素直にすごいな、と思わざるをえません。(ただ、今から50年前に、このビルボード・チャートで1位を獲った、坂本九さんの「SUKIYAKI」(上を向いて歩こう)も忘れてはいけない。) 

 

 BTSがアメリカのファンの注目と支持を得られた理由について、アメリカ人がどう考えているのかについて、ネット記事で探ってみました。主に参考にしたのは以下の記事。 

people.com

www.reddit.com

www.billboard.com

 すると、いくつかのキーワードが浮かび上がってきました。ちなみにこれらの記事、「韓流アゲ」、「BTSアゲ」のために在米韓国人が書いてるんじゃない?と最初は思っていましたが、クレジットを見る限りそうではありません。つまり、決して“ごり押し”状況があるわけではないということです(もちろん在米韓国人と思われる記者名もありましたが)。 

 以下が、アメリカのエンタメ記事から浮かび上がったキーワードです。

 

1.韓国以外のファンを排除しないマーケット・ストラテジー

 彼らのコンテンツは、韓国国外からも非常にアクセスが容易なこと。

 BTSの所属事務所(Big Hit)は、まだ設立されてから10年ちょっとしか経ってない、新しく、そして規模が小さ~~な事務所です。そのため、地上派テレビ番組にタレントを送り込んで知名度を上げさせることができない。そのためにとった戦略が、ネット放送での露出を増やしまくること。YouTubeはもとより、ネットの有料番組・無料放送を駆使して、世界中に彼らの姿を届けることに腐心してきました。 

 そして、コンテンツ自体の性質も一役買っています。K-pop男性アイドルの場合、ある程度、腐とか萌えの要素が求められてしまう部分があるのですが、彼らは知ってか知らずかそのあたりは抑え気味で、ただただうるさくて面白い。そういう彼らの姿がネット戦略に合致して、事務所もどんどんコンテンツを流していくという好循環が生じているようです。彼らの話すことばが分からなくても、見ててかわいい&楽しい。国境を越えて世界中の女子たちが食いつかずにはおかない、そんな状況のようです。 

 そして、BTSは、韓国アーティストとしては初めて、米AmazonでCDのオンライン予約販売をしました。これにより、6日連続でCD総合ランキング1位をキープしたそうです。ちなみに、EXOからは今度リアリティDVDが発売されるようですが、リージョン・コード付きで(見られるDVDプレーヤーが限られる)、“予約数量に限り限定製作”なんだそうですよ・・・。まあPCでも見られるけどさ・・・。

 今や、コンテンツへのアクセスのし易さというのは、海外ファン獲得の重要な要素のようです。

 

2.Reality(現実性)とAuthenticity(真正性)

 アメリカのファンは、彼らの姿に“realness”を感じている人が多い。

 リアル、つまり作詞作曲のほとんどに彼ら自身が参加していて、彼ら自身の思いを伝えている、という点に惹かれるようです。テイラースイフトちゃんとか米で人気のアーティストは、自分でも曲を書いて、等身大の自分を歌っています。BTSの曲も、10代、20代の若者には、国境を越えて直接響くものがあるのでしょう。リアルだから、intimate(近しく)感じられると。確かに、韓国の“七放世代”と呼ばれる若い世代の苦悩が、彼らの歌詞を通して聞くことで、よりハッキリとした感情を持って心に入ってきたりもします。 

 ただ、もしかしたら、この点については日本のファンは若干違う感想を持つかも知れませんね。日本はアイドル先進国で、その文化も若干独特です。アイドルにリアリティは、それほど求めてこなかったと思う。例えば、郷ひろみの「2億4千万の瞳」や光GENJIの「パラダイス銀河」なんて、リアリティのへったくれもないですから。このあたりの評価の仕方は、お国によって違うのかもね。

  一方で、Authenticity(真正性)に関しては、確かにうなずけるものがあります。自ら書く歌詞、一級品のダンス、本当にラップ界出身のラッパー(変な言い方ですが、K-popにありがちな、お仕着せビジネス・ラップではないという意味で)がメンバーにいること、ステージでの熱意、チームワークのよさ、なんかでしょうか。自ら伝えたいことがあって、それを伝える手段をきちんと整えることができて、そして、それがちゃんと見ている人・聞いている人に伝わる、という姿は、実はなかなか希有なもののように感じられます。 

 

 続きます。 

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